「かっぱえびせん」のカルビー成長戦略

「かっぱえびせん」のカルビー成長戦略

〜カルビー株式会社松本晃会長ご講演から

2014年12月3日@コーポレートガバナンスネットワーク〜

 

誰もが忘れることができない悲劇の2011年3月11日。同日午前にカルビー株式会社は、東証1部上場を果たしたが、その午後、あの東日本大震災が起きた。あまり奇妙で不思議な話である。

関係者は、上場という門出を美酒で祝いたいところであろうが、それどころではなく、自らの工場や従業員の安否確認に奔走していたのだろう。なんという船出であろうか。

カルビーは、過去同族経営をしていたが、経営と資本の分離をするという大きな意思決定を行い、経営をプロに任せた経緯を持つ。元ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の社長を経て、2009年からカルビーを経営してきた松本晃会長兼CEOの講演に出席した。

前のめりになる興味深いお話をたくさんうかがったが、その中でもダイバーシティについてのみ触れてみたい。

まずは、現在の役員構成。7人の取締役中、5人が社外取締役で、内2名が外国人、1名が女性。欧米では取締役は社外が中心とは聞いているが、実際社外取締役をこれだけの高いペーセンテージで登用している日本の会社はほとんどない。たいへん勇気溢れる経営だと感心してしまう。

 

昨今社外役員を置いている会社でも、普通は社内役員の総数が社外役員の総数を上回っている。つまり、社長と社内役員とがYES といえば、すべてが決まる仕組みであり、社外役員全員がNOといっても否決ができない。日本には、社長にNOと言えない役員が多いのではないか。社内が2名で、社外取締役が5名というのは、とてもガバナンスが効く環境であることは間違いない。

数ばかりではない。外国人2名、女性1名というダイバーシティが効いた役員構成でもある。

年齢差、性差、国籍などにかかわらず広く意見を取り入れ、多様性を活かした経営がダイバーシティである。カルビーの役員会においても、様々な角度からの意見が出され、広く議論されているのであろう。

さらに同社の16人の執行役員のうち4人が、女性である。その内の1人は、「時短」勤務であり、4時以降は会社にいないらしい。この女性は、2人の子供を育てるために「時短勤務」をしていたときに、部長に推挙され、本部長となり、執行役員となったそうだ。「時短」は、今でもそのまま。なんという勇気を持った会社であることか。

しかし、女性だから昇進させているのでは決してない。女性にも(男性にも)仕事の成果を求めている。相撲の世界で成績によって位が上下するのは当たり前であるように、仕事場も同じように考える。ある一定の期間に成果を上げることができなければ、一旦身をかがめて実力を蓄えて、また上がってくればいい。一旦職位が上がったを(成果によって)下げられない仕組みの方がおかしい。そういう松本会長の考え方である。ちなみに、ご自身には、厳しく、横綱で成績が残せなければ、引退しかないと名言されている。すばらしい。

 

さて、同社の業績であるが、上場以来、売上、利益、ROEとも上場以来ずっと右肩上がりである。イノベーションとコスト削減の2本柱であるが、理念経営がすばらしい。松本会長は、ジョンソン・エンド・ジョンソン時代のクレドについて、熱く語られていた。大事なのは、(1)顧客、(2)従業員、(3)社会貢献、(4)株主であり、この順番で、ものごとを考えなければならない、とのこと。クレドの英語版と日本語版を常に持ち歩かれているそうだ。

さきの取締役会の厳しいガバナンスを保持しながら、トップが現業を進めていくには、そうとうの自信と信念が必要だと思う。その自信と信念が先のクレドに立脚したものであると思った。それからぶれることがない、確固たる経営をされているのではないか。

西郷隆盛は、幕末の儒学者佐藤一斎の「言志四録」にある1133の言葉から101を書き抜いて、死ぬまで身につけていたという。信念、想い、哲学のどれと言えばいいのかよくわからないが、できる人にはそういうものが備わっている。それからぶれずに、行動している。松本会長も信念の人であり、とても気持よく講演を効かせていただいた。多謝。