古川裕倫の「いろどり徒然草」12月号

どのようにして世田谷ビジネス塾主催ビジネス書大賞が選考されているか

「世田谷ビジネス塾」が来夏10周年を迎える。
 
 地元世田谷の駒澤大学の施設をお借りして、月に1度土曜日に行っている無料読書会。「参加者が本の内容や感想を他の参加者に紹介し、その後参加者が一緒に議論をする」という簡単な仕組みであるが、なかなかどうして深みがあっておもしろい。長年続いているのがその証拠であろう。毎回の参加者数は、20-30名ぐらいであるが、フェイスブックの会員は800名近い。対象書籍は、「ビジネス書、自己啓発書、歴史書(小説可)、伝記、自伝」など。純文学、恋愛小説、サスペンスなどは、コメントができないので、一応対象外とさせていただいている。

 年間7万冊もの新しい書籍が日本の書店市場に出てくるが、それらの中から面白そうな本や良書を見当てるのは大変な作業である。また、従来から売っている多くの作品の中から、自分の仕事に役に立つような良書を探し出すのも至難の技である。

 哲学者のショーペンハウエルや江戸時代の儒学者佐藤一齋など先人は、「良書を読みなさい」と言葉を残してくれているが、何が良書かなかなか難しい。また、両者は、「人は新しい書籍に目を奪われがちである」とも言っている。新刊が気に気になる我々には耳が痛い。

 「世田谷ビジネス塾」で本を読んだ率直な感想を聞き、質疑応答を進めていくと、だいたいの書籍像が現れてくる。出版社が自分のためにするお手盛りの宣伝とは違って、読者の素直な感想が聞ける。「5個満点で、星3つ」みたいに。良書のほとんどは、小難しいことは決して言わない。むしろ、読みやすく、分かりやすい。参加者は老若男女。大学生から退職組まで、男女も半々ぐらい。

 世田谷ビジネス塾は、一昨年から「世田谷ビジネス塾ビジネス書大賞」を決めている。前年紹介された本を会員が投票し、その後20名前後の選考委員が一次選考に残った4-5冊を2-3か月で熟読した上、議論して決める。選考の基準は二つ。世界に紹介したい書籍と後世に読んでほしい書籍。いずれは、これらを英語化して、電子書籍で世界に紹介したい。利害関係のないスポンサー募集中。
 
 2014年の第1回大賞は、「修身教授録」(森信三)、特別賞として「道を開く」(松下幸之助)。2015年の第2回大賞は、「逆境を超えて行くものたちへ」(新渡戸稲造)

 2015年から姉妹塾「堂島読書会」を大阪でスタートした。隔月開催。もちろん、こちらの読書会で紹介された本も大賞候補になる。

 先月から第3回ビジネス書大賞の選考が始まった。私は、塾メンバーが紹介してくれた「銀行王 陰徳を積む 安田善次郎」(北康利、新潮文庫)の推薦状を書いて投稿した。2次選考に残るかわからないが。推薦状のサンンプルとして下記したい。

 安田善治郎は、天保9年(1838年)富山に生まれ。福沢諭吉の4歳年下で、明治維新から約30年前に生まれた。安田財閥・芙蓉グループの創始者であり、のちの安田生命、富士銀行とつながった。 安田善治郎は「陰徳を積む人」として知られる。

 善治郎の父は、富山人の気性とも言える「律儀一方」な人間であり、厳しく善治郎を育てた。自らを律することや勤倹を旨とした。特に「陰徳を積め」ということを教えた。陰徳を積むとは、人に褒められたいから善行を尽くすのではなく、他人に知られることなく黙々と世のために尽くすことを言う。人知れず善行を行うことによって自分を磨く。

 ある着飾ったお金持ちがお連れとともに施設を見舞ったという話を聞いた時、これは違うと、善治郎は残念に思った。名前を出さずに善行を行うことこそが徳を積むことである。「慈善は陰徳を以って本とすべし、慈善を以って名誉を求むべからず」と父から教えられていたのだ。

 江戸に出て丁稚奉公をしている時も他の奉公人とは違う心構えを持っていた。人の出入りが多い店の土間には履物が乱雑に散らかっていた。忙しい奉公人たちは、誰かに言われるまで履物を直そうとはしなかったが、善治郎は、誰に指示されなくても履物を揃えた。自分が外出する時も、外出から帰ってきた時も、奉公人や番頭の履物も揃えている。

 ゴミが落ちていたら、さっと拾う。自分の店の土間でも、店の前でも。さらにはお使いに行く道で紙くずも拾う。誰か見ているとか見ていないとかは、関係ない。「陰徳を積む」を実践した。

 安田善治郎は、晩年自分の人生を振り返り、こう語った。「自分には人にすぐれた学問も才知もない。技能もたいしたことはないが、克己堅忍(克己と忍耐)を修養したことに関しては、誰にも負けない。富山を飛び出して、小僧として奉公し、商人として身を立てるまでの奮闘を一言で言えば、克己堅忍の意思力を修養するための努力に他ならない」

 物語のエンディングもすごいのですが、それは本を読まれてください。

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