夕刊フジに古川裕倫の「私を感動させた1冊」が取り上げられました

2018年(平成30年)8月13日発売

夕刊フジ(2018年8月13日号)

改革の敵は保守意識

ビジネス現場での女性活躍推進を担う一般社団法人「彩志義塾」(東京・南青山)代表理事で、経営コンサルタントの古川裕倫(ひろのり)さん(64)が推す1冊は、J・P・コッター他著『カモメになったペンギン』(藤原和博訳・ダイヤモンド社)だ。

ビジネスマンをペンギンにたとえ、カモメを改革実現の象徴とした題名は邦題で、原題は「とけかかった氷山」。氷山はペンギンの住み家であり、その住み家が脅(おびや)かされるのはビジネスマンの所属する組織(会社)が存続の危機に陥る状況を表す。

読むきっかけを古川さんは「かつては『V字回復の経営』などの指南書があったが、今はあまりない。『改革』がテーマの本がないかとネットで探して、本書に出合った」という。

古川さんが現在、メーンにする仕事が「企業の風土改革、コンサルティング、研修であり、女性登用の促進がその一環です」。「そうした仕事をしながら感じるのは、若い人の登用を叫びながらなかなか実現しないゆったりした風土があること。一方で若い人は自分のスキルを伸ばしたいのに上司と合わないなどの問題をかかえている」と話す。

さらには「ダイバーシティー(多様化)といって、外国人や女性や障害者の雇用は見られるも、本質は変わらない。依然としてそれら人々への評価は低く、信賞必罰であるべきなのに年功序列が根を張っている。徹底した評価を行うグローバル企業との差が生じる」と指摘する。古川さんの話と本書の内容とは符号する点が多い。

本書はペンギン社会のある若者が氷山の気候による変貌に気づくところから物語が始まる。当初、集団の大半は、若者の問題提起に理解があったとは言い難い。が。若者の意見に賛同する女性ペンギンが登場し、徐々に集団の空気が変わっていく。

古川さんは印象的な場面を「『ノーノーペンギン』の存在です。どこの会社組織でも改革に反対する勢力があるのです」と、自身の体験を重ねながら、改革には抵抗がつき物と語る。「昔、新橋・横浜間に鉄道が開設されるとき、猛反対があった。国内の鉄道が街の真ん中を通っていないのはその名残です」

イノベーション(改革)の敵は身内に巣食う強烈な保守意識であり、物語では若者ペンギンが自在に住み家を替えるカモメの生態を観察し、移動(改革)の本質に気がつくところで新局面を迎える。

ちなみに著者は『企業変革力』『リーダーシップ論』邦訳版を著しているも、「内容が難しく、易しくしたのが本書です」と古川さんは教える。リーダーシップについては、本書では問題意識を共有する少数グループの討論によって真のリーダーシップが形成されるとある。

古川さんは経営コンサルティングのセミナーを彩志義塾で定期的に開くほか、三井物産勤務時代を元にした『課長ノート』や、最新の著書に『60歳からのルール』(明日香出版)など著作活動を行う。ビジネス小説『タカラヅカを創った男 小林一三と明治人たちの商人道』(仮題)を書き上げたところである。コンサルティングの旗手である古川さんの今後に期待したい。

(文芸評論家・長野祐二)