古川裕倫の「いろどり徒然草」10月号

明治時代にジョーンズ・ホプキンス大学に留学した男

コロナ禍の報道で、「ジョーンズ・ホプキンス大学」という名前を聞かれた方が多いと思う。私も「あれっ、この大学なんであったか?」と思い、珍しく思い出した。新渡戸稲造が留学した大学。前の5千円札のメガネの紳士である。

新渡戸稲造は、文久2年(1862年)陸奥国岩手郡盛岡生まれ。新渡戸は「少年よ大志を抱け」で有名なクラーク博士がいた札幌農学校(のちの札幌大学)の2期生。札幌農学校卒業後、新渡戸稲造は「太平洋の架け橋になりたい」という大きな志を持って、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学に留学した。

「日本人はなぜ礼儀正しいのか」
「日本人はなぜ君主に忠誠を誓い、年上の人を尊敬するのか」

などと留学中に何人かに聞かれたが、新渡戸は質問に対する答を持っていなかった。

また日本について詳しいアメリカ人は
「それらは神道なのか、それとも仏教の影響か」
などと質問してくるが、それにも答えることができなかった。

このため新渡戸は、のちに日本人の心や魂について深く勉強して、のちに『武士道』(Soul of Japan=「日本の魂」)を書いた。最初は明治33年(1900年)に英語で出版され、のちにドイツ語やフランス語にも訳された。日本語で出版されたのは日露戦争後の明治41年(1908年)であった。

本書は日露戦争のファイナンスにも一役買う。
日露戦争前に戦費調達のためにロシアも日本もヨーロッパで国債を販売したが、大国ロシアと東洋の小国では人気が格段に違った。敗戦すれば国債は紙切れになってしまう。

当時、国債の販売を担当していたのは、のちの大蔵大臣高橋是清(たかはしこれきよ)であった。なんとか日本の国債を売るべく考えついたのが、新渡戸稲造の『武士道』であった。日本のことが世界でほとんど知られていなかったので、この本で日本をヨーロッパに紹介しようとして、それなりの成果が上がった。
 
実際に『武士道』は当時の米国大統領のセオドア・ルーズベルトに感銘を与え、ルーズベルトはすべての側近に読ませたと言う。昨今では忘れ去られている「日本人の美」について学ぶ意味でも世界で活躍する意味でも、現代の日本人にもとても参考になる。

外国に留学しようとする日本人にも、日本を知ろうとする外国人にも『武士道』を読むことを強く勧めたい。新渡戸稲造の『逆境を越えていく者へ』(新渡戸稲造、実業之日本社)も素晴らしい。人は誰もが落ち込むことがあるが、逆境をどう乗り越えるかを教えてくれる。

この本と「回復力」(畑村洋太郎、講談社現代新書)を、元気な時に読んでおくと、逆境に巡り合ったときに、落ち込みの深さが浅く、落ち込んでいる期間も短くなると私(古川)は思う。


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