古川裕倫の「いろどり徒然草」4月号

竜馬に学ぶビジネスの要諦(第10回)

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竜馬に学ぶビジネスの要諦(第10回)
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■竜馬のリーダーシップ(その1)
これまでに、竜馬の大きな志、高い人間力、そして並外れた行動力などをご紹介してきた。目先の小事にとらわれることなく、竜馬のそうした能力が幕臣勝海舟や西郷隆盛、桂小五郎、高杉晋作など雄藩の重鎮を動かした原動力となった。今回は、竜馬の部下に対する指導力、すなわちリーダーシップについて見てみたい。

一介の脱藩浪士がこれらの人々の心を動かすことは大変なことである。大きな事を語るだけではただのホラ吹きだが、竜馬は時流を読んで日本のあるべき姿を考え、人を説得する力を持ち合わせていた。

実力のある薩長がいがみ合っているときではない。徳川幕府を支持するかしないかの問題でもない。竜馬が考えたことは、どのように国の自主独立を守るか、であった。それを論じ、薩長同盟を実現させ、後の大政奉還に導いたのである。

繰り返しになるが、初対面の人間に信頼され、重鎮を説得できたのは、竜馬の人間力が相当高かったからに違いない。他人に信頼される人柄、いい笑顔、人に対する優しさや情熱がそろっていたのだろう。

今流に言うと、他社のトップを自在に動かす人間力あふれる実力者ということになる。今回は、竜馬の部下に対する指導力、すなわちリーダーシップについて見てみたい。

■「四万十川の堤防工事で発揮した竜馬のリーダーシップ」

竜馬が18歳のとき、四万十川の堤防工事を手伝うことになった。工事を10区ほどに分け、竜馬はその一区の長を担当した。ほかの区では人夫が怠けもののため工事がはかどらなのだが、竜馬の区はばかに早く進む。普請奉行の池田虎之進が見に来ると、竜馬はいつも松の木の下で膝(ひざ)を抱えて居眠りをしている。

他の区より、半分の日数で仕あがってしまった。池田虎之進がくわしく訊くと、竜馬はまず仕事の責任者を巧みにえらび、それぞれ分掌させ、競争させた。
「あとはなにもせぬのか」
「毎日出来ぐあいを検分して、褒美をやります」
『竜馬がゆく』(司馬遼太郎、文春文庫、三巻134頁)
 
ピーター・ドラッカーは、リーダーの一番の仕事は、「目標を明確にして成果を上げること」だと言っている。

竜馬は、仕事の責任者を適材適所で選び、彼らに任せて競争させた。日々その結果を検証し、評価して褒章をやっている。そして、成果を上げた。

適材適所の人事をするには人を見る目が必要である。人はいいところもあればそうでないところもある。十把一からげで人を見ないで、よいところを見つけてそれを引き出す。そして、任せる。任せっぱなしではなく、結果を検証する。

言うまでもなく、公正な評価をすることはリーダーの大切な仕事である。えこひいきや好き嫌いで人を評価すれば、それこそ部下からの不信を買ってリーダー失格となってしまう。

褒美をやるといっても金品だけではなかったはずだ。「よくやってくれた」と言って、心からの感謝の念が竜馬の顔にあふれていたに違いない。これこそが人間力である。

いくら頭がよくても知識があっても、人間力が少ない人には部下はついてこない。

たしかに、『竜馬がゆく』にある上記3点は大切であるが、物語全体に散りばめられている竜馬の高い人間力があることが大前提である。毎日居眠りをしている普通の上司には部下は付いていかないからだ。

■「本当に龍馬は居眠りをしていたのだろうか」 

先ほどの続きであるが、竜馬が担当した工事の場所は、今でも「竜馬の居眠り堤」として語り継がれている。

竜馬が本当に居眠りをしていたかどうか、私は極めて疑問に思っている。現場に張り付いて部下にアレコレと言うことはなかっただろう。むしろ、部下に任せたら、仕事が済むまで待っていいたのではないか。

私が若いころ、お世話になった上司がいる。あるとき私が任せられた仕事をしていると、どうもその上司の様子がおかしい。何もしないでボーッとしているが、チラチラとこちらを見ている気配がする。私は思い切って聞いてみた。

「私の仕事が遅いのでしょうか」
「その通りだ。でも、待つのも仕事だ。ワッハッハ」

仕事が遅いと全面肯定されたのは辛(つら)かったが、「待つのもの仕事」だと聞いてとても嬉しかった。「ようし、効率を上げてやるぞ」と心に誓った。恥ずかしながら、私は決して優秀な社員ではなかったが、がむしゃらに仕事をするようになったのは、この上司のおかげである。

話を戻すと、居眠りをずっとしている上司に部下はついてはいかない。任せた以上、アレコレ言わずに寝たフリをしていただけだと私は思う。

部下に任せたら、しっかり任せることが大切だと思う。


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