第3回講座
前向きに、明るく、逃げず、知ったかぶりせず
〜島田精一さんの言霊〜
彩志義塾代表理事
古川裕倫
一般社団法人「彩志義塾」主催の「女性社員のための立志塾」1期生第3回講座のゲストスピーカーは、津田塾理事長の島田精一さん。元三井物産副社長、元日本ユニシス社長、元住宅金融支援機構理事長と経歴で、私の人生で3番目に出会ったメンターでもある。
他方、聴衆。「女子社員のための立志塾」メンバー6人(内2人は、大阪と松山から参加)、姉妹塾である「女子大生のための本気塾」からモニター聴講が、5名、11月1日に設立されたばかりの「彩志義塾」(2つの塾の主催母体)の理事・幹事6名、その他2名が聴講した。
緊張したメンバーの真剣な眼差しが、島田さんを囲み、話が始まった。
「この塾の趣旨のとおり、まず高い志を持つこと。現実にできない夢のような目標ではいけないが、自分がこうしたい、こうなりたいという意識を持って、志を探しなさい
意識がなく自分探しの旅に出かけても、答えが降ってくるわけではい。海図なき航海ではいけない。
人の話を聞いたり、本を読んだりして、現実的な志を探しなさい。こうすればこうなるかもしれないという仮説を立てて、探すものいい。そして、志を持って、自分自身を創っていきなさい」
電信課という商社の地味な部門に配属された新入社員時代を振り返る島田さん。入社前の理想では、海外を飛び回って活躍している自分であるはずが、本店と海外店の通信のアシスタント的業務しか与えられず、毎日通信コード表とにらめっこをして暗号を読解しているだけの毎日に大きく失望した。
上司の助言もあり、そう思わずに、目の前のことから学ぼうと気づいた。電信を読んでいれば、ビジネスの流れもわかるし、三井物産が取り扱っているすべての商品もわかる。「前向きに考えよう」が、島田さんの原点である。
はじめはビジネスのやり方がわからず、先輩に聞きまくっても、まったく成果の出ないナポリ駐在員であった。もちろん支店長から結果が出ないと叱咤された。
しかし、めげることなく毎日客先に通い、努力を続けているうちに、成約にこぎつけることができた。「継続は力なり」を実感した。成果はすぐには出ないが、出るまであきらめないことを学んだ。松下幸之助の成功の秘訣「途中で止めるから失敗する。できるまでやること」を紹介された。
メキシコ物産の副支店長時代、大事件に遭遇することとなった。競合他社からの虚偽の申告によって、メキシコ物産の4人が警察に逮捕されたのだ。4人のうち、島田さんともう一人が、結果195日間監禁されたのだ。
衛生状態がきわめて悪く、また無法者がゴロゴロいる刑務所で、悲観にくれる毎日が始まった。漫画本などの差し入れが来るようになったが、そんなものは読む気にもならない。「なんで会社は交渉して私を出してくれないのか」とも思った。
そのような中、差し入れられた本にあった高杉晋作の辞世の句に出会う。
「おもしろき こともなき世をおもしろく すみなすものは 心なりけり」
おもしろいかおもしろくないか決めているのは自分の心である。「他人が〜してくれる」などと考えずに、自分の心の持ち方を考えてみようと思うようになった。戦国時代、幕末・明治、第一次大戦など歴史物や出所後浦島太郎とならぬようマルチメディアなどの時代の先端をいく書物をむさぼり読んだ。195日間で300冊ほど。歌を一日10首作ろうとも思い、実行した。
「前向きに 明るく 逃げず 知ったかぶりせず」に生きようと思った。また、いくら苦しくても、「朝のこない夜はない」「夜明けが一番暗い」とい言葉を信じた。イタリア時代の「人生は楽しむためにある」という従業員の言葉を思い出した。
その他、今から考えればたいへん魅力的な投資機会に決断できずに大きな機会損失をした、多くの会社を潰したことなど、自らの失敗をあっけらかんと自己開示される。偉い人のお話だからさぞ立派な話がたくさん出てくるであろうと思っていた参加者とは、真反対のあからさまな失敗談を平気でされる。懐がふかく、器が大きい。人間力のかたまりである。
「失敗を恐れず、変化の渦中に飛び込め」。明治当初の「機関車とカゴかき」の話、18世紀の産業革命、19世紀の伝記・通信・自動車革命時代を学べ、と。柳内正さんの「1勝9敗」の話や、「何もしないことこそが失敗である」と、たんたんと説明される。
また、渡辺五郎さん名言の「人を見る目と先を見る目」を紹介され、「人を見る目」は、多くの人とつきあうこと、遊びではなく真剣に仕事をする人と金と時間を使うことで養うことと説明があった。「先を見る目」は、読書や勉強をし、セミナーなどに通って養え。本を読むと、自分では経験のしていない人間の成功や失敗の話をたくさん学べる。自分だったらどうするとシミュレーションしながら読め。
本などその気になれば、いくらでも読める。時間は自分で作るもの。「忙しい」というのは、自分のスケジューリングができていないということ。
いつもながらの、高尚で説得力の高い島田節であった。私は、島田さんのお話を何度も聞いているが、何度聞いてもいい。「いい絵は何度見てもいい」という人がいるが、それと同じことだと思う。
参加者は、途中から言葉一つ聞き漏らさないよう前のめりになっている。人の話は「針一本落ちる音も聞け」というが、まさにそんな講演であった。立派な人の話は、すばらしい。格好を付けずに、自己開示満開である。当塾メンバーの一人が、話を聞いて落涙していた。自分の師匠の話をそう受け止めてくれて、私もたいへん嬉しく思った。すばらしい人を紹介できてよかったと思うとともに、大きな自慢でもあった。嬉しくて自分も涙が出てきた。
(了)
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